ミッドナイトゴスペルの世界観 ”多次元宇宙シミュレーターのユーザーマニュアル”

Spread the love

「ミッドナイトゴスペル」は見た?

ミッドナイトゴスペルは、クロマティックリボン(染色体のリボン)という次元に暮らすスペースキャスターのクランシーを主人公とする物語です。2020年4月20日にNetflix独占で公開され、アメリカでも大変な話題を呼びました。ちなみに4月20日という日付は、クランシー役を務めたコメディアン兼放送作家のダンカン・トラッセル氏の誕生日であり、米俗語でマリファナを指す420のダブルミーニングになっています[1]

このクロマティックリボンの世界で、クランシーは「多次元宇宙シミュレーター」というアバター転送装置を通じ、世界の終末が近づく別の惑星に出かけては、住人にインタビューをして全宇宙に配信しています。

本作の面白いのは、このインタビューが実際のポッドキャスト番組「ダンカン・トラッセル・ファミリー・アワー」の音源を基に制作されているところです。元々、「ファミリー・アワー」のファンだったアニメ作家ペンドルトン・ワード氏が番組にファンメールを送り、それがきっかけでミッドナイトゴスペルの制作に至りました。と言ってしまえば、わずか数行の文章ですが、最初のメールからアニメ完成まで7年もかかっていますから[2]、人生の引き合わせはまったく不思議ですね。

アメリカのアニメは、日本と違って子ども向けが多いと言われますが、その一方で「サウスパーク」をはじめとするケーブルテレビの大人向けコメディアニメも作られています。ミッドナイトゴスペルもその流れの中にあり、「スペースゴースト・コースト・トゥ・コースト」や「アクアティーンハンガーフォース」など、シュールなおバカアニメの影響を受けたと言います[3]

しかし、大きく違うのは、扱うテーマが非常に哲学的でスピリチュアルだったところです。

 

 

 

ミッドナイトゴスペルの世界観

アメリカのオタクと日本のオタクの違いについて考えると、日本のオタクは自分たちのスイートスポットをなぞる共通のテンプレートをアレンジして使うのが好きですが、アメリカのオタクは自分の好きなものに対する研究心がやたら深くて、それらに対するオマージュや愛を作品の中に散りばめてくるところにあるのではないかと思います。ヒップホップカルチャーやタランティーノの映画がそうですよね。

そしてミッドナイトゴスペルも、差し込まれた小ネタを挙げたらキリがなくて、実際、みんなが語りたくなってしまう作品だと思います。既にインターネットの中ではファンベースが出来上がっていて、掲示板にはミッドナイトゴスペル版が立っていますし、Spotifyにはサウンドトラックのプレイリストも作られています。

本作は、これまでにない新感覚アニメと言うより、むしろ、これまであったジャンルを稀有なセンスと才能で掘り起こし、素晴らしくハーベストさせた21世紀的マスターピースなのだと感じます。各エピソードの中には、瞑想、仏教、許し、魔術と変容、生と死など、これまでスピリチュアルの世界で語られてきた様々な話題が登場します。そこに関連して名前が挙がるのも、テレンス・マッケナ、ティモシー・リアリー、ラムダス、アレイスター・クロウリーなど、60年代カリフォルニア精神文化オールスターズと言える顔ぶれです。

 

これもおすすめ:

アストラル界からのインタビュー テレンス・マッケナと”タイムウェーブ・ゼロ理論”

R.I.P. ラムダスを知る8つの名言 向こう側でもBE HERE NOW

 

ミッドナイトゴスペルは、その扱うトピックや映像から「観るドラッグ」だと言われることがあります。確かに、誰がどう見てもそうなのですが笑、しかしポッドキャストでのエピソード本編を聞くと、むしろスピリチュアルの道でドラッグは大きなトラップになると話していますから、決して推奨している訳ではないんですよ。テレンス・マッケナでもティモシー・リアリーでも、昔の人は、現代のようにヴェールが希薄化した時代を生きていないですから、覚醒するには強烈なキックが必要だったのだろうと思いますけどね。

アニメーションを作るにあたって、最初はポッドキャストの内容を文字に起こし、どの部分をアニメに使うか考えていたそうですが、作業は遅々として進まず、ある時、インスピレーションにまかせて即興的エピソードを選び、会話を切り取ったら、とてもしっくり来たそうです[3]

アニメ―ションを担当した天才ペンドルトン・ワードの作風はとてもユニークで、カラフルな世界を自由に飛び回る感覚は悪夢のようでもあり、不思議と皮膚感覚に訴える心地よさも感じます。たとえばクランシーに靴を履かせてあげる描写や、動物たちの描写などに、心から愛しいものに向けるような優しい眼差しがあるんですよ。

 

 

多次元宇宙シミュレーターのユーザーマニュアル

さてここで、クランシーが使っている多次元宇宙シミュレーターについて説明しましょう。クランシーの住むクロマティックリボンの世界では、バイオコンピューターで宇宙をシミュレートし、その中で育ったテクノロジーを収穫する「シミュレーション農家」なるものが存在します。しかしクランシーの場合、自身のスペースポッドキャストのために、中古のシミュレーターを無免許で使っています。

正式名称「ヴェルノン108」多次元宇宙シミュレーターは、制作者であるD・ヴェルノン氏による108号機です。オフィシャルのユーザーマニュアルがNetflixから“リリース”されていますので、中身を見てみましょう。

 

ヴェルノン108は、現在ある市場版シミュレーターの2倍の速度を持ち、9999.9999.9999%の精度でシミュレーション世界を宇宙空間に変換できる次世代の多次元宇宙シミュレーターだそうです。「シミュレータから生物を持ち帰る際には、地域の収穫条例をよく理解するように」と書いてあります。が、クランシーは、いきなり第一話目から宇宙犬を連れて来てしまいましたから、まったくマニュアルを読んでないんでしょうね。

それにしても、わざとなのか偶然なのか分かりませんが、マニュアル右下にあるコーヒーカップのしみが、いい味を出しています。

 

ヴェルノン108を使用開始する際は、接地ルーターとコントロールパネルを接続し、あらかじめプログラムされている意識の波長と同調させる必要があるようです。そうすることで自分仕様にパーソナライズできます。ルーターに接続する前に、必ず高品質の「グリーンオイル」を3本、表面と切れ目の部分にマッサージするようにと書いてあります。ケアを怠ると、故障の原因になります。

 

「グリーンオイル」は、宇宙動物ランタンヘッドが産出しています。不気味なようで、平和そうな見た目ですね。一体、何を食べて暮らしているのでしょうか。来世はランタンヘッドになるのもいいな。

 

 

このシミュレーターは、意識のシグネチャーを読み取ることで使用者と同期するという量子テクノロジーを用いた高性能マシンです。同期率を高めるには、マシンとの密接なコミュニケーションを取ることと、グリーンオイルによる定期的なマッサージが必要になります。

 

シミュレーターと同期するには、インジェクションロッドが推奨されていて、頭を直接つっこむのは危険ですからやめましょうと書かれています。クランシーは、むしろ頭しかつっこんでないですけどね。

以上、このマニュアルには他にも素敵なページがありますから、ぜひチェックしてみてください。

 

 

壊れゆく古い世界の福音とスピリチュアルな旅路

個人的にはクランシー/ダンカン・トラッセルと同い年なこともあり、彼の言葉や世界観はとてもリアルに響きます。この記事を書くにあたって、関連するポッドキャストのエピソードも全部聞きましたが、もはや友達なのではなかろうかという親近感すら湧くんですよ。

彼の言葉がリアルなのは、もちろん彼の人柄によるところも大きいですが、「ダンカン・トラッセル・ファミリーアワー」という番組が、彼自身の人生を深く反映しているからでもあります。たとえば、アニメーション第二話の元になったエピソードは、ダンカンのお父さんが亡くなった二日後に録音されていて、彼は思い出を語りながら、途中で何度も声を震わせます。そして、シーズン1の全エピソード中でもっとも感動的と言われる第八話は、ステージ4の乳がんで死を待つベッドにいる彼のお母さんに行ったインタビューがベースになっています。

ダンカンとお母さんは、人間として生きること、死はどのようなものかについて、まるで日常の続きであるかのように穏やかな口調で語り合います。愛する人の喪失という、誰の胸も抉る残酷な痛みと、一生分の愛情と静かな信頼が、クロマティックリボンの世界でどのように描かれると思いますか。ぜひNetflixをご覧ください。って、何ももらってないですけどね。つい、そう言いたくなるほど素晴らしい作品なんですよ。

結局、スピリチュアルが人の役に立てることがあるとするなら、それは死と喪失の痛みを慰めることではないかと、いつも思います。圧倒的なその瞬間に立てば、理論なんてまったく何の足しにもならないでしょう。それでもなお、私たちは永遠のつながりを信じたいと願う儚い存在です。

「ミッドナイトゴスペル」というタイトルについて、ダンカン・トラッセル氏は、こう語っています。

 

 

『ゴスペル(福音)』は、良い知らせを意味します。最も壊滅的な状況にあって、すべてが崩壊している時でも、人として成長する機会があるというメッセージを伝えたいと思っていました。[4]

 

クランシーは毎回、終末の危機に瀕した世界に出かけては、そこで見つけた品物を持ち帰って来ます。それらは消えゆく世界の形見であると同時に、文字通り、クランシーの旅路の足跡です。

これもおすすめ:仲間が欲しい時のスピリチュアル各グループ生態図鑑

 

 

私が好きなエピソード

私が個人的に好きなエピソードをひとつだけ選ぶなら、別格の第八話はさておき、ゾンビ映画好きとしては、やはり第一話を挙げます。ゾンビ側の主観を盛り込んでみると、なるほど、そうかもなと思わせるものがあります。このエピソードの最後には、チベット仏教の「ヴァジュラグル・マントラ」という、マニア向けのマントラが歌詞になったブルーグラスが流れるのですが、あまりによくできているのでアニメに合わせたオリジナルかと思いきや、実在の歌手だったので驚きました。アメリカは広いですね。

なお、マントラは、02:36あたりから流れます。「オマフン・ヴァジュラグル・ペマ・シディ・フン」です。パドマサンババという伝説のグルによってこめられたパワーが入っているそうです。

 

何しろ、いろいろ話したくなってしまいますから、それだけ魅力のある作品なのです。シーズン2は来年になるという話[5]も出ています。楽しみですね。

 

 

Follow me in social media:

ミッドナイトゴスペルの世界観 ”多次元宇宙シミュレーターのユーザーマニュアル”」への2件のフィードバック

  • 2020年6月26日 11:18 午後
    Permalink

    まだミッドナイトゴスペル見てないんですけど、Spotifyでサウンドトラック聴いてました笑 Netflix入ろうかまだ迷ってるー、けどミッドナイトゴスペル見たい笑。。

  • 2020年6月28日 4:49 午後
    Permalink

    新しくて、鮮烈な、まさに目を覚まさせるような作品を知るたびに、畜生!やられた!先越された!と思って、とても居心地の悪い焦燥感が身体を這い回るんですが(半分はわくわくするんだけど、グレートアウェイクニングマップを知ったときのメタさんの気持ちがわかるような気がしました)
    しかし、落ち着いてよくよく考えてみたら、自分が目指してるところというのはちょっと絶妙に全然違うとこなのかもしれない、とすこーしずつ気づいてきています
    これは大事なことかも
    つい例の焦燥感にヤラレて、シャットアウトしてしまいがちだった今まで
    でもオリジナリティはまた別のとこにあって、彼らを拒んで生きるなんて悲しいことでしかなくて、近くにいる仲間なのかもしれない
    勇気いるけど
    メタさんの記事はときどき、そういう実は大親友になる人からの優しいノックです

コメントを残す

当サイトではクッキーを利用しています。クッキーの利用に同意する旨のメッセージを表示されることがあります。
「承認」ボタンをクリックするとメッセージが表示されなくなります。
了解せずに引き続き当サイトを利用する場合は同意したものとします。
承認