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オークランド暴動下のピグレット

米ミネソタ州で白人警官に拘束された黒人男性が死亡した事件を受け、全米各地でプロテスト(抗議デモ)が行われています。私が住んでいるオークランドでも、大きなプロテストがありました。

オークランドのプロテストは、日が暮れてから始まります。おそらく昼間働いている人たちが参加できるようにするためと、商店や食堂が閉まってから、なるべく住人に危害を加えないようにするためではないかと思います。地元のオンラインコミュニティには、プロテスト翌日の掃除と後片付けについても投稿があり、人々はコミュニティとしてこの問題にどう取り組み、いかに抗議すべきかを話し合っていました。マイノリティの町ですから、誰も他人事ではないのです。

その日、ダウンタウンでプロテストが行われることを、CC(夫)が知らないはずがないのに、午後になって上空を旋回するヘリコプターが一台、二台と増えていっても、彼はそのことをまるで話題にしませんでした。

「暴動とは、声を聞いてもらえない者たちの言葉だ」というキング牧師の言葉があるように、抗議の声を上げることは、この国では特別な意味を持ちます。声を上げず、立ち上がって戦わないなら、受け入れいてるのと同じだと言われます。それなのに、CCがプロテストのことを話題にしないのは、彼にとっては、あまりにシリアスな話題だからだろうと感じました。南部出身で黒人の彼が、これまで何度となく酷い目にあってきたことを私も聞いていました。人種差別にまつわる事件が起こる度に、彼の中で悲しみと深い怒りが白い炎のように立ち上るのをいつも感じます。

 

 

おやつの時間にCC自家製のクッキーを食べながら、私はそれとなく切り出しました。

「今夜、プロテストがあるみたいだね」

「僕は、仲間外れにされても気にならないくらい、年を取ってるからね」

「私はアメリカで生まれ育ってないし、所詮は対岸の火事だと言われれば、その通りだと思う。決してシンプルな話題じゃないし、途中から首を突っ込んで、当事者としての痛みや悲しみが伴わない正義感を声高に振り回すのは、私は好きじゃない。でも、私があなたの側にいるってことは、覚えていて欲しい。あなたが警察署を燃やすなら、私も一緒に行って燃やすよ。単なるソーシャルジャスティスのためじゃない。あなたが生きてきた人生のためだ」

私が言うと、CCは笑いながらサムズアップしました。

「じゃあ、その時は頼むよ」

 

やがて夜になり、遠くから打ち上げ花火の音が何発も聞こえてきました。プロテストの始まりでした。私たちの住むアパートがある通りは、メインストリートや地下鉄の駅に近いため、プロテストの人たちがやって来るかと思いましたが、予想に反して比較的静かなまま、夜は過ぎていきました。オークランドの人は、プロテストもエレガントなんだなと思いならが、眠りに就きました。

 

Some photos from the protest in Downtown Oakland last night (May 29 2020) from r/oakland

 

 

・・・・・

翌日になって、インターネットニュースを見ると、昨夜のプロテストで暴徒化した一部の人々が、アップタウンで数々の破壊や略奪を行ったことが大きく取り上げられていました。道理で、うちの方は静かだったわけだ。ソーシャルメディアには、マスクをつけた人々が銀行ATMを破壊し、カーディーラーから車を盗み、スーパーマーケットのショーウィンドウを割って入り、中のものをごっそり略奪する写真や映像が、数えきれないほどアップされていました。

 


大きなプロテストは、回を重ねるごとに統制が取れて行くものなのですが、いつも最初は大きな被害が出ます。その状況は、地元のオンラインコミュニティでも問題になっていました。理不尽な破壊や略奪をすれば、プロテストのメッセージが伝わらないばかりか、まったくの逆効果であることは分かり切っているからです。

そして、こういう時には決まって、略奪行為を働くために地元以外の町からわざわざ来る人がいることが話題になります。掲示板には、「便乗したのは別の郡から来た他所者だ」、「奴らは白人だった」、「いや黒人だった」、「いろいろな人種がいた」、「中学生も関わっていた」とお互いを責めるようなコメントが投稿され、それを取りなす人たちが出てきます。これらすべてはコミュニティにとって大きな学びのプロセスだと感じましたが、誰かだけが悪いわけではなく、誰もが痛みを抱えていて、誰もが真剣なはずなのに、どこかで本題からずれていってしまうのが、やりきれませんでした。昨夜、CCがプロテストを話題にしなかった理由がよく分かりました。

私が悲しかったのは、近所の名物ベトナム食堂のガラス扉が割られたことでした。いつも美味しいごはんを作ってくれるその店は、ロックダウンの長い休み中に看板を張り替えたばかりで、やっと再開するところだったのにと思うと、胸がつまりました。

ガラス扉が攻撃された食堂。Black Lives Matter Oakland Damage – https://imgur.com/a/WXeKtjs

 

リビングでコーヒーを飲んでいたCCに、私は話しかけました。

「今朝のニュース見た?  誰かがベトナム食堂のガラス扉を割ったんだって。ひどいよ。こんなふうにみんなで傷つけ合っていたら、結局、みんなが悲しい思いをするだけなのに」

「でも、誰かを傷つけようと生まれて来る人なんていないよ。扉を割った奴らだって、きっと根っからの悪人じゃない。たまたま人生に絶望していたり、子どもの頃の感情的なトラウマに傷ついていたり、自分に自信が無かったり、身の回りに正しい情報がなくて、他に選択肢がないと信じ込んでいるだけなんだ」

それって、いつもなら私が言うことじゃんと思いましたが、あえて反論せず耳を傾けていると、CCは話を続けました。

「いいかい? こういう時、感情に飲み込まれちゃだめだ。切り離して考えるんだ。世界がクレイジーな時に、僕がいつも心がけていることがある。まず最初にするべきなのは、世界をありのままに受け入れることだ。どんなにひどいと感じても、ここが僕らの生まれて来た世界だ。まずはそのことを受け入れるんだ。それから次に、自分に何が出来るか考える。今すぐ僕らに出来るのは、ベトナム食堂にありったけの愛を送ることだ。そして騒ぎが落ち着いたら、また行って、春巻きやヌードルを沢山テイクアウトしようよ」

あのカリカリと香ばしい春巻きの美味しさを思い出すと、私はなぜか少しほっとしました。

「今、世界で起きている出来事の全体を考えたら、僕らはちっぽけな存在だ。たとえて言えば、くまのプーさんのピグレットくらい小さい。ピグレットはとても小さくて臆病だけど、スイートで、いつも勇敢になりたいと思ってるし、彼の友達を幸せにしてる。同じように小さな僕らにだって、世界をよりよい場所にするための何かがができる。みんなの絶望が少しでも和らぐように」

その時、窓の外から、通りを歩いている誰かが大声でFワードを連呼するのが聴こえて、私たちは思わず顔を見合わせました。

「彼にもピグレットが必要かな」

「いや、彼がピグレットだろうね」

CCの言葉に、私は吹き出しました。

Piglet-Wikipedia

 

プロテストの嵐は、しばらく続くでしょう。混沌を通じて大きな代償を払い、学びを得るのは、人間がいる限り続いていくことなのかも知れません。誰かにとっての素晴らしい世界が、別の誰かの悪夢にならない世の中を作るには、あとどれほど時間がかかるでしょうか。

でも、誰の心の中にも、花やドングリが大好きなピグレットがいます。

どんな人でも、今日、少しだけ世界を明るくする選択ができます。

それが私たちの希望であり、力です。

「オークランド暴動下のピグレット」への8件のフィードバック

  1. メタさん、ブログご覧になってる読者の皆さん、こんにちは!
     
    とてもシリアスでタフな状況ですね…(英単語使っちゃいましたが、使い方間違ってたらごめんなさい)
    そんな場面でのお二人の姿勢、素敵だなぁと感じました。
    微力ながら応援してますし、私も自分の出来ることをしていきま〜す。
     
    世界が愛で満たされますよう。


  2. 私は今回の記事を読ませていただいて、メタさんがCCさんのお母さんのような気がしてきました。。。

    私はメタさんのアウェイクニングのお話が大好きです。
    これからも楽しみにしています。

    ありがとうございました。

  3. 噛み合うのを感じています
    でもメタさんが悲しそうだと私も悲しいです
    悲しいんですが、私はたぶん悲しみは嫌いじゃないです
    不謹慎みたいで傷つけてしまったら嫌だけど、そうじゃなくって
    だからこそ出来ることがありそうです
    「残酷な人生というものが、人間がいる限りは必ずどこかにあるんだと思っています。そんな人生を祝福したいんです」と私はさっき、自分が話しているのをイメージしていました
     
     
    とはいえ、なによりも、
    アメリカには銃がありますし、私ちょっと想像しきれてない感じもしてますし、とにかくご無事でいてください

  4.  メタさん、はじめまして。こんにちは。
    どの人にも物語があり、そこに至る経緯があり、誰もが自分の信じる最善を生きているのだろうと思います。
    人はみんな、健気で、優しく、可愛いですね。
    ぱっと見、ネガティブな行為でも、
    全ては愛と理解を求める叫びなのだと思います。
    人類に幸あれ!
     

  5. はじめまして。メタさん通信を楽しみに、そして励みにさせていただいてもう何年になるでしょう。感謝を言葉で送ろうとするとうまくいかず、いつもハートを送っておりました。
    メタさんとCCさんの深い言葉に涙しました。冷静に全てを受け入れ、私も自分の場所でピグミーと灯りをともしていきます。
    メタさんとCCさんに心から感謝しています。ありがとうございます。どうぞご無事で

  6. アメリカ人の友人にこのニュースについて質問しました。何故アメリカ人はフェアーを訴えて暴力を生むのか、矛盾してるよね?って。日本人は尊敬を心根に持っているし謝る文化があるけど、奪う文化が根強いアメリカ人にとって自分の声を上げなければ誰にも理解されないからだよって。なるほどって思いましたが、理屈じゃなく体験していたら自分もどういう行動をしているかわからないし、CCさんの意見を聞いて、冷静さは失わない様にしようって思いました。

  7. メタさん、こんにちは!初めてコメントを書かせ頂きます。いつも沢山の学びを下さり、ありがとうございます♪ 

    「あなたが警察署を燃やすなら、私も一緒に行って燃やすよ。」という言葉を読んでいて、涙が溢れてきました。そして気付きがありました。ありのまま、あるがままを受け入れ愛すること、それが自分には欠けている事が分かりました。

    アウェイクニングが始まって以後の過去5年間、誰とも深く繋がる事が出来ず、ひたすら自分と向き合ってきました。魂の課題が一体幾つ残されているのだろうかと、途方に暮れていた時期もありましたが、今は少しづつ前向きに毎日を過ごせるようになってきました。

    メタさんの言葉には、大きな力があります。これからも、日本にいる私達に、変わり続ける勇気と愛を送ってくださいね!

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